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イラン情勢悪化に伴う在ベトナム日系企業への影響調査報告まとめ

イラン情勢によりベトナムも色々と影響が出つつある中で、弊社で行いました在住企業へのアンケート結果の要約をアップいたします。まとめレポートは回答企業のみに送付しておりますのでご容赦ください。

 

2026年2月28日のアメリカ・イスラエルによるイラン攻撃から約3週間が経過し、ホルムズ海峡の封鎖長期化が懸念される中、ベトナム進出の日系企業は極めて深刻な局面に直面している。

弊社が実施した調査(59社回答)によると、約86%の企業が既に影響を受けているか、今後受ける見込みであると回答しており、問題は「将来的な懸念」から「顕在化した経営課題」へと完全に移行している。 特に、原油高騰に端を発するナフサ等の石油化学原料のコスト増、および代替困難なLPG(液化石油ガス)の供給不安は、企業の「コストリスク」を「事業継続リスク」へと変質させている。

 

製造業、特に輸出型製造業の約9割が影響を受けており、価格転嫁の困難さから収益構造の崩壊や、防衛的な生産調整を余儀なくされるケースが出始めている。今後、事態は「価格上昇フェーズ」から「供給制約フェーズ」へ移行する恐れがあり、サプライチェーンの抜本的な再構築が急務となっている。

1. 調査背景と対象企業の特性 2026年3月21日時点の情報を基に、イラン情勢の悪化がベトナム日系企業に与える具体的影響を分析したものである。

回答企業の業種内訳 回答企業の構成は、ベトナムにおける日系企業の典型的な産業分布を反映している。

製造業 輸出型(電子部品、自動車部品、樹脂加工等): 約4割

国内向け(食品、日用品、建材等): 約2割 約60%

商社・流通・小売 物流・販売網を担うセクター 約20%

サービス・その他 約20%

2. 影響の全体像:顕在化フェーズへの移行 調査結果によれば、企業の約86%が影響圏内にある。特筆すべきは、影響が「段階的に波及」している点である。 影響の現状: 「既に影響あり」:18社(約30%) 「今後影響見込み」:33社(約56%) 現場で発生している事象: 単一の問題ではなく、以下の複数のリスクが同時並行で発生する「複合的リスク」の様相を呈している。

・仕入価格の急騰

・サプライヤーからの価格改定(値上げ)要請

・物流の混乱に伴う納期遅延 ・供給制限の打診

3. 石油化学サプライチェーンにおけるコスト連鎖 本問題の本質は、単なる燃料価格の上昇にとどまらず、石油化学サプライチェーンを通じた「中間素材のコスト増」にある。

3.1 ナフサを起点とした連鎖構造 石油化学産業の出発点であるナフサの価格上昇は、以下の中間素材を通じて製造業全体に波及している。

対象素材: ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、樹脂フィルム、化学溶剤等。

波及経路: ナフサ → エチレン・プロピレン → PP・PE → 包装材・部品 → 最終製品。

この連鎖構造により、一企業の努力では吸収できない規模のコスト上昇が現場を直撃している。

4. リスクの変質:LPG供給と物流の不確実性 今回の情勢悪化により、企業のリスク認識は「コスト」から「継続性」へと質的な変化を遂げている。 LPG(液化石油ガス)の深刻性: 多くの製造工程においてLPGは代替が難しいため、関心は「価格」よりも「供給が維持されるか」に移行している。

供給途絶は即座に生産停止を意味するため、事業継続リスクとして最優先課題となっている。 物流の混乱: 海上輸送の遅延と運賃上昇により、納期の遵守が困難になっている。これは売上機会の損失だけでなく、顧客との信頼関係悪化という中長期的なリスクを招いている。

5. 業種別の影響構造 業種ごとに直面している課題の性質が異なっている。 主な影響と課題 輸出型製造業 約9割が影響。原材料と物流のダブルコスト増に直面。価格転嫁が極めて困難で、利益率が急速に圧縮されている。

国内向け製造業 LPGや包装材コストの上昇が直撃。消費者市場への価格転嫁が進まず、利益低下が顕在化している。 商社・小売業 在庫戦略のジレンマ。供給不安対策の在庫増は資金負担(キャッシュフロー悪化)を招き、在庫抑制は機会損失を招く。

6. 企業の対応状況とその限界 企業は防衛策を講じているが、いずれも構造的な解決には至っていない。

在庫の積み増し: 短期的な対策にはなるが、キャッシュフローを圧迫する。ベトナム日系企業の場合、親子ローンの追加など複雑な事務手続きを伴う。

調達先の分散: 有効ではあるが、実現には多大な時間とコストを要し、即効性に欠ける。 価格転嫁: 市場環境や競合状況に依存するため、実現が困難なケースが多く、結果として利益を削る対応となっている。 生産調整・受注制限: 苦肉の策として、経営の重点を「成長」から「維持」へとシフトせざるを得ない状況にある。

7. 顕在化している5つの具体的リスク コスト連鎖リスク: ナフサ価格上昇による最終製品のコスト構造の根本的変化。 生産停止リスク: 代替困難なLPGの供給不安による事業停止。 売上機会損失リスク: 物流遅延に伴う納期遅延と顧客離れ。 財務・供給リスク: 在庫戦略の失敗による資金繰り悪化と供給不足の同時発生。 収益構造崩壊リスク: 価格転嫁不能による赤字受注の常態化と財務体質の急速な悪化。

8. 今後の展望と結論 現在、事態は極めて不透明な状況にある。 「供給制約フェーズ」への移行: 現在の「価格上昇」段階から、物理的に物資が届かない「供給制約」段階へ移行することが最大の懸念である。

ベトナム政府の動向: 政府は3月末までのエネルギー安定供給を明言していたが、3月20日を過ぎた現時点でも、それ以降の確保に関する具体的な報道や目処は立っていない。 結論 今回のイラン情勢悪化は、エネルギー、石油化学、物流が複雑に絡み合う複合リスクであり、場当たり的な対応では不十分である。

日系企業には、短期的にはLPGや物流の確保に全力を挙げつつ、中長期的にはナフサを起点とするコスト構造を見直したサプライチェーンの再構築が求められている。迅速かつ柔軟な意思決定が、今後のベトナムにおける競争力維持の分水嶺となる。

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